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布哇(ハワイ)貴重資料解説(16) 『実業之布哇 創刊三十周年記念号』

2012年10月24日 · コメント(0) · 古書, 新刊

英文書名:30th Anniversary Issue of the Jitsugyo no Hawaii (The Jitsugyo no Hawaii : 30th Anniversary Edition; Featuring Timely Messages to Japanese People in Hawaii from Army, Navy and Civilian Leaders)

[実業之布哇社 編]

実際問題として本書の書名は断定し難い面がある。五色刷りの表紙(「鷹」と「星」をモチーフにした大森照成画伯作品)は、『実業之布哇 創刊三十周年記念号』を書名としている感であるが、折り込みの目次欄では『ハワイの思ひ出』が書名であるようでもあり、扉や奥付けはない。だいたい、本書は極端にあるいは意図的に1941年の月日を削除または伏せたように察せられる。日米決戦が目の前に迫っており、自主検閲とハワイ当局(軍部)の検閲が眼に見えるようである。

むろん、内容は詰まるところ、親米論調であり、少なからぬ米軍指導層の諸寄稿が見える。それにしても、随分と多彩な人士に寄稿を求め、沢山の広告を掲載し、多数の写真も入れたものである。私見では、皇紀2600年奉祝と「開戦切迫」との記事内容が交錯した一冊となったように考えられる。英文論壇記事60頁は基本的に日本語の訳文が付いていて、一見する限り翻訳はかなり正確である。

英文欄によって私は、本書の書名が The Jutsugyo-no-Hawaii であることを確認し、これが第30巻35号([1941年]9月19日発行号)であることを知った。その後、一定の期間を要して読者の手に渡ったものと察せられるが、定価表示もなく300頁もある本書が無料で配布された可能性も考えられる。

最後に本書の政治的・戦略的特色にもう少しく触れておきたい。戦雲急を告げていた日米開戦の直前であり、「ハワイは今空前の非常時である」(巻頭言)という認識から本書が生れている。日米双方の各界名士に談論風発を誘い、非常時の嵐の渦中で「直言的」な情報を集めた節がある。

日本の雑誌『改造』や米国誌紙などの記事を転載したかと思えば、書下ろしも豊富。社説的に「日米戦争にならぬ理由」が巻頭にあり、別の頁で藤井整(加州毎日新聞社々長)は、教育勅語の精神をして、これぞ「米化運動」の精神そのものと説き(105頁)、後々に大物となる湧川勝三(当時在米帝国大使館嘱託・元『実業之布哇』英文欄主幹)の、「日米の平和親善の為め言論機関の奮闘を望む」は、警鐘的所見にして説得に富む(147頁)寄稿となった。湧川の英文原文は Facing Unpleasant Realities (Ernest K. Wakukawa) と題され、本書英文欄(25-26頁)に残る。

実業之布哇社は米本土ロスアンゼルスに「南加支局」を設け、重鎮仲村権五郎(当時米国中央日本人会々長)を据えていた。仲村は本書に、「非常時局と米国の恩義『私は大学で真のアメリカを知った』」を載せている(129頁以下・原文は英文欄39-40頁)。これは仲村が1941年6月25日に日系市民協会主催「対米国忠誠応酬大会」で行った講演 (Speech given at a loyalty rally sponsored by the JACL of San Gabriel Valley in El Monte, CA) に基づいたものである。

この種の発言は、戦後のGHQ稀代に多くの滞米経験者の口から出たが、謂ってみれば、ご都合主義的なものが多い。時点的に仲村は、明日にでも「敵」となるかも知れない米国を、実に冷静に観察している。

〔文生書院ホームページに目次を公開中(PDF)〕

http://www.bunsei.co.jp/pdf/i2_h17.pdf

hawai16

 

【文生書院:復刻版『初期在北米日本人の記録』に収録されています】

ISBN978-4-89253-340-2

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